
この作品のタイトルやポスタービジュアルの第一印象は、いかにも僕の苦手とする爽やかなラブストーリーで、まあ多分観ることはないだろうなと思っていた。なのになぜわざわざ公開初週に早速劇場に足を運んだかというと、その理由はただひとつ「キム・ミンジュが出演していることを知ったから」なのだ。
『君の声を聴かせて』は、2009年の台湾映画『聴説』の韓国版リメイク。大学を卒業したものの、就職もせずに両親が営む弁当屋を手伝っているヨンジュンは、弁当の配達先で出会ったヨルムに一目惚れしてしまう。ヨルムは聴覚障害者ながら水泳のオリンピック選手を目指す妹ガウルを献身的に支えていた。ヨンジュンは大学で習った手話を通じてヨルムと心を通わせていくのだが…というストーリー。
ヨンジュンとヨルムを演じた主演ペア、ホン・ギョンとノ・ユンソは実に爽やかで演技も素晴らしいが、この二人に負けず劣らずの魅力を発揮していたのがガウル役キム・ミンジュだ。彼女は、2018〜2021年までグローバルガールズグループ“IZ *ONE (アイズワン)”のメンバーとして活躍し、グループ解散後は女優としてドラマなどに出演しているが、商業映画に出演するのはこの作品が初。
彼女はIZ *ONE 時代からその美しさには定評があったが、ステージパフォーマンスと映画で演技することや存在感を発揮することはまた違うスキルが要求されるので、実は「ミンジュは役者として大丈夫なのかな?」と少し心配していた。
実は何を隠そう僕はIZ *ONEの大ファンだったので、グループ結成のためのオーディション番組やデビューしてからのVlogなどもマメにチェックしていた。IZ *ONEに選ばれたメンバーはそれぞれパフォーマンススキルがかなりのハイレベルで、当時ミンジュは歌やダンスの経験不足から、練習で他のメンバーについていくのが大変そうな時がちょくちょくあった。でも一転して本番のステージや完成したMVでは見事なパフォーマンスを見せてくれていたので、「ミンジュ頑張ったんだね〜(泣)」と親戚のように感動していたものだ。
なので本格的な映画初出演となったこの作品での彼女を期待半分、心配半分で注目していたのだが、結論から言うと「そんな心配はまったく無用」だった。メインキャスト3人は手話での会話がメインとなるが、手話をしながら表情で感情を伝える複雑なシーンや、水泳選手としての立ち振る舞いなど、どれをとっても見事。華やかなアイドル時代の“麗しいオーラ”を封印し、ナチュラルメイクで普段着っぽいファッションの“普通の女の子”を実に自然に演じていたのだ。アイドル時代よりも少し幼く見えた程、とにかく魅力全開だった。
映画全体の印象は、まさに予想通りの爽やかなラブストーリーで、まあ僕のようなオヤジにはちょっと「爽やかすぎる」けど、最後にちゃんとひねりもあるし、かなり楽しめました。
僕は基本、映画を見る前にあまり事前情報を入れないようにしているので鑑賞後に資料を見て驚いたのは、これが台湾の映画のリメイクだと言うこと。台湾オリジナル版はエディ・ポン、アイヴィー・チェンとミシェル・チェンが出演しているらしい。ミシェル・チェンといえば僕が偏愛する『あの頃、君を追いかけた』のヒロインである。これは是非観てみたいけれど、今のところソフト発売も配信もないようなので観るのは不可能のようです。悲しい。実は今回の韓国リメイク版で最後の最後にちょっとした短いシーンがあるのだけれど、あのシーンがあったおかげで僕のこの映画への評価は爆上がりしました。このシーンが台湾オリジナル版にもあるのかどうかどうしても知りたいです。
『君の声を聴かせて』監督:チョ・ソンホ(2025年10月2日@TOHOシネマズ池袋 スクリーン6)