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  • 71歳ジャッキーじいさんの鉄拳はまだ衰えていないぞ『シャドウズ・エッジ』

    日本版メインビジュアル。スタイリッシュです。

    80年代全盛期のジャッキー・チェン映画をリアルタイムで観てきた世代としては、ハリウッドに行ってからの彼の映画はずっと不満だった。ユニオンの問題か何かで、ジャッキー本人が危険なアクションやスタントをあまりやらなくなったのも物足りなかったし、体を張るのは若手に任せて、自身はストーリー的にお膳立てされたおいしい役回りだけを演じている、というのも違和感があって、だんだん彼の出演作を観ないようになっていった。『ベスト・キッド』(2010年)とか本当に悲しくなるくらいつまらなかった。

    人は永遠に若くはいられないから、それは仕方のないことなのだけれども、ジャッキーならもう少しやりようがあるのではないかな、と思っていたのも事実だ。『トワイライト・ウォーリアーズ 決戦!九龍城砦』(日本公開2025年)でのサモ・ハン・キンポーを見て「彼はこういうふうにうまく年齢と役柄に織り合いをつけてアクションもしっかりやっているのに」と思ったりしたものだ。

    しかし2025年の年末、ジャッキーファンのそんな忸怩たる思いを吹っ飛ばしてくれる怪作がついに現れた。それがこの『シャドウズ・エッジ』である。

    たぶん本国版メインビジュアル。

    正体不明のサイバー犯罪集団が暗躍するマカオが舞台。なす術のない警察に最後の切り札として、“追跡のエキスパート”黄徳忠(ジャッキー・チェン)が呼び戻される。彼はすでに現役を退いていたが、若き精鋭たちとチームを組み、犯罪集団“影”を追いつめていくが…というストーリー。

    オープンニングのアクションシーンはちょっと派手すぎて嘘っぽく、あまり乗れなかったけれど、その後の、ターゲットである傳隆生を追跡チームが尾行してアジトを特定するシーンが実にスリリングで見応えがあり「この感じならアクションがなくても全然イケるじゃん」と思わせてくれた。そこから後半は俄然物語にもエンジンがかかり、追跡サスペンスとド派手アクションがバランス良く展開し、いい意味で期待を裏切ってくれた。

    こちらもたぶん本国版ポスタービジュアル。ちょい縦長。

    なんと言っても、71歳ジャッキー・チェンが「ちゃんと地に足のついた」アクションを見せてくれるのが最高だ。映画のアクションというと派手な仕掛けばかり優先されるけれど、今回のジャッキーのアクションは泥臭い格闘がメインで、まさに“死闘”と言えるような本気の闘いばかり。長らくこういうジャッキーのアクションを見ていなかったので「これこれ!こういうのが見たかったんだよ!」と思ってしまった。

    もちろん『プロジェクトA』(1983年)や『ポリス・ストーリー 香港国際警察』(1985年)のような全盛期の体のキレには及ばないけれど、71歳で頭も薄くなったジャッキーが、その年齢に相応しい、全力のアクションを見せてくれるのは実に胸が熱くなる。

    そして宿敵となる犯罪集団のトップ・傳隆生が、極悪非道なのに時折人間らしさを垣間見せたりする実に魅力的なキャラクターで、「へえ、存在感のある上手い役者がいるなあ」などと思っていたら、なんと『愛人/ラマン』(1992年)のレオン・カーフェイだった!映画を観ている間は全然気づかず、後から彼だと知って「え〜!!」とびっくりしてしまった。流石の演技力と壮絶なアクションに圧倒されました。

    上映時間は141分と、この手の映画にしてはかなり長尺ですが全く緩まない展開と、個性的な俳優たち、そして緊張感あるアクションで長さを感じさせない満足度の高い一本。2025年を締めくくるのにふさわしいエンタテインメント作品でした。見逃したら絶対損しますよ。

    『シャドウズ・エッジ』監督・脚本:ラリー・ヤン 2025年12月27日@新宿バルト9 シアター5

    蛇足的追記:

    🔳僕は公開3週目の土曜昼の回に観ましたが、バルト9の大きめのスクリーンでほぼ満席でした。終わった後皆さん口々に「面白かった」と言っていました。レビュー評価も軒並み高いのに、早く公開終了しちゃう劇場が多くてすごく残念です。もう1回観たいのに。

    🔳俳優陣は皆熱演ですが、特にジャッキーのパートナーとなる若手女性警官を演じるチャン・ツイフォンが素晴らしかったですね。彼女は『シスター 夏のわかれ道』(2021年)が良かったし、少し前に公開された『フライトフォース 極限空域』(2024年)でもアンディ・ラウの娘という重要な役を好演していて印象に残っています。

    こちらはインターナショナル版のポスタービジュアルかな?ちょっとパンチがないですね。

    🔳あと無駄にイケメンが多く出てきます笑。傳隆生の息子を演じたツーシャーは金城武の若い頃に本当にそっくりです。そっくりすぎて笑えます。

    🔳入場者プレゼントで、映画のメインビジュアルとキャラクターたちが8種類あしらわれたカードをもらえました。大きさは完全にポストカードなのですが、裏にも写真が印刷されているのでポストカードとしては使えないという笑。普通の人にとっては、どうしたらいいのかよくわからないプレゼントです笑。僕はもらえて嬉しかったです。飾ります。

    公式には「ジャバラカードというそうです笑」

  • 新鋭監督の才気が溢れる『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』は必見だけどチャンスは限られる

    この映画の予告編を見て『こいつは面白そうだ』と思い、公開を楽しみにしていたのだが、ミニシアター系の中でも小規模公開作品らしく、劇場も時間も限られていてスケジュールを合わせるのに苦労した。何とか公開週に観ることができたけれど翌週からはさらに観るのに苦労しそうだ。平日夜の回に観たが、観客の入りは3〜4割と言ったところか。作品の情報もなかなか届きにくいし、届いても時間帯や劇場にかなり制限があったりするので、ミニシアター系作品はこういうところが実に難しいですね。

    スイス山中の小さな街でお針子をしているバーバラは、唯一の肉親だった母を亡くし、譲り受けた店は倒産寸前。相談できる友人も恋人もいない。ある日、常連客との約束に遅刻した上にミスをしてしまったバーバラは、店に戻る途中に麻薬取引の現場に遭遇してしまう。売人の男たちは血まみれで倒れ、道には破れた麻薬入りの袋、拳銃、そして大金入りのトランクが転がっていた。横取りか通報か、それとも見て見ぬふりか?運命の3択がバーバラの頭をよぎる…と言うストーリー。

    本国版?かインターナショナル版のアートワーク。こちらもクラシカルでなかなかいいですね。

    細かいツッコミどころはあるけど、全編センスの良い映像と奇想天外なストーリーで面白く観ることができる、ユニークで才気に溢れた作品。オシャレデートにもぴったりの1本です。

    鑑賞後にHPを見たら、なんと監督のフレディ・マクドナルドは2000年生まれ。我々にとって2000年なんてついこの間なのに笑。現在25歳で、撮影時は恐らく23歳くらいだろう。何という若さだ。さらに資料を読んでいくと、監督が19歳の時に作ったこの作品のパイロット版のような短編映画があって、それを観たジョエル・コーエンが絶賛し、長編制作を勧めたらしい。何とも夢のある話だ。確かにこの映画にはスリルとユーモアがたっぷりあって、まるでコーエン兄弟の映画のようにも思える。

    僕はそれこそ『ファーゴ』や『ブラッド・シンプル』みたいな、田舎町を舞台にしたミステリーやサスペンスが大好きなので、この映画をすっかり気に入ってしまった。

    全編「さあ、この後どうなる?」というワクワク感に満ちているし、次々に予想を裏切るユニークな展開を用意していて飽きさせない。ラストの人を食ったようなオチもうまく決まっている。

    お針子の技術を駆使したさまざまな仕掛けは視覚的にもカラフルで実に見ていて楽しいし、スイスの田舎町の風景も実に美しく、舞台設定に効果的なロケーションになっている。あと音楽もすごく印象的で素晴らしいサウンドトラックでした。

    限られた登場人物と限られた予算で知恵を絞って作られた映画には傑作が多い。この映画はまさにそんな感じ。

    この新鋭監督がその才能に磨きをかけて、さらなる傑作を作ってくれることを願うばかりだ。「初期は良かったけどその後全然ダメだったよね」みたいな監督はいっぱいいるので、何とかこの後も頑張って欲しいものです。

    『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』監督:フレディ・マクドナルド 2025年12月25日 @シネ・リーブル池袋 シアター2

    蛇足的追記:

    🔳僕はブルーレイが出たら買いますよ。そもそも出るかどうかかなり微妙だと思うけれど。

    🔳パンフレット1000円は高いな〜笑。800円なら買ったかも。

    🔳映画はもちろんだけど、ポスターなどのアートワークはすこぶるセンスよし。ひと昔前なら『アメリ』みたいにシネマライズあたりで公開されて“シブヤ系オシャレ映画”としてロングランしてたかも?と思わせるような作品でした。

  • 長尺のせいで終電対策が大変な『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』

    前作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』から3年、ついに待望の第3作が公開された。とにかく公開初日に観たかったのだが、何と(と言うか想定内だったが)上映時間が3時間17分もある。そのため鑑賞スケジュール的にこの映画は「ちょうどいい時間に始まってちょうどいい時間に終わる」のが難しい。僕の場合夜に観に行きたかったので、18時30分くらいに始まって、22時くらいに終わる時間帯だと余裕を持って帰れるので都合がいい。だが、なかなかそういうスケジュールの劇場はない。

    さらにこのシリーズは絶対にIMAX3Dで観ると決めているので劇場も限られる。ちなみに僕がよく行くグランドシネマサンシャイン池袋の夜の回は20時45分開始の0時17分終了で終電に間に合わない。TOHOシネマズ新宿は20時50分開始で24時30分終了でこちらも終電がアウト。TOHOシネマズ日比谷なら19時40分開始で23時15分終了なのでかろうじて大丈夫だが、ちょっともたついている間に観やすい席が売り切れてしまった。

    さあ困った、どうしよう?と思っていたらウルトラCの解決策が見つかった。ちょっと遠いが穴場の「イオンシネマ越谷レイクタウン」のサイトを覗いてみたら、19時25分開始で22時55分終了の回があった。まあ遠いのでギリだが何とか帰れる時間だろう。観やすい席もたっぷり残っている。「ここしかない!」と言うことでチケットを入手した

    と言うことで待望の『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』をIMAX3Dで鑑賞。以下ネタバレありですのでご注意ください。

    もちろん超大作だし、基本はアクション映画なので普通に面白く観られるのだけれど、今回はさすがに「少し長いな」と感じてしまった。僕は1作目の通常盤もエクステンデッドエディション(ロングバージョン)も長いとは感じなかったし、2作目(上映時間3時間12分)も長いなとは思わなかった。

    ではなぜ今回は長いと感じたのかというと、まあはっきり言っちゃえば「惑星パンドラに慣れてきた」のだと思う。これまで1作目は「森」、2作目は「海」を舞台にさまざまな生態系や文明を描き、それぞれに新鮮な驚きがあったわけだが、今回は1作目と2作目と同じ舞台でそのまま物語が展開するので、あまり新鮮味がないし驚かない。「前に見たことある場所」なのだ。

    そして、ストーリー展開やキャラクターの行動原理がやや雑になってきた、ということ。ジェイクが人間側に捕まったと思ったらあっさり救出されたり、救出のキーマンがその後重要な役割を担うのかと思ったらそうでもないし、とかサスペンスの鍵だった「スパイダーのマスク問題」も唐突な展開であっさり解決しちゃうし、「このターンは本当に必要なの?」みたいなシーンが多い

    さらにキャラクターに関して言えば、それぞれの信念がブレブレで、特にクオリッチは優しくなったり冷酷になったり、改心したかと思ったらしてなかったりとか何だかよくわからなくなってきてしまった。ジェイクもスパイダーを守ろうとしたり殺そうとしたりで、そんな中で唐突にとってつけたような見せ場が展開するのでちょっと感情移入ができなくなってしまう。

    あと今回最大のウィークポイントは「クライマックスが前作の焼き直しの海上決戦」になってしまっていることだ。2作目が素晴らしかったのは「海」を舞台に、1作目の「森」とは全く違う舞台とアイディアで戦闘シーンを見せてくれたことで、とにかく新鮮な驚きがたくさんあったのだ。だが、今回は「そのパターンは前にも観たな」と思っちゃうシーンが多く、少し退屈してしまったのだ。演出も前作の方がねちっこくて良かったし、今回はサクサク進みすぎて物足りない感じがしてしまった。

    と、ざんざんケチをつけてしまったが、僕はキャメロンの創る世界が大好きなのでたぶんもう一回は観ると思います笑。この壮大なスペクタクル・アクションは他の人には絶対に真似のできないスケール感。今回の着地でシリーズが終了するということはさすがにないと思うので、引き続き4作目も待ちたいと思う。次こそは舞台をガラッと変えてほしい。

    『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』監督:ジェームズ・キャメロン 2025年12月19日@イオンシネマ越谷レイクタウン IMAXスクリーン

    蛇足的追記:

    🔳まずこの作品はハイ・フレーム・レートと言う上映方式で、『ホビット』シリーズなどと同様の方式(『ウェイ・オブ・ウォーター』も同じ方式だったかはもう忘れてしまった)。確か1秒間のコマ数が60フレームで、人間が肉眼で現実世界を見る状態に近い映像になっているのだとか聞いたような気がする。まあとにかく必要以上に動きが滑らかなので普段の24コマ、あるいは30コマの映画に慣れている我々には少し違和感がある。しばらく観ていると気にならなくなるが、最初はちょっと気持ち悪い笑。

    🔳今回初登場し、ポスタービジュアルにもなっているアッシュ族のヴァラン。好戦的で残忍というキャラクターはいいのだけれど、あまり魅力を感じなかった。種族の女性リーダーにはやはりそれなりの思想やカリスマがあって欲しい。我々の意識の中にはエボシ御前(『もののけ姫』1997年)が刷り込まれていて、彼女に比べると半端なリーダーは見劣りしてしまうのだと改めて実感。

    🔳久しぶりに入場者プレゼントでA3版IMAXポスターをもらいました。僕は入場者プレゼントでは一番これが嬉しい。しばらく飾って鑑賞の思い出に浸れるし、コレクション性も高い。大きさも手頃で処分する時にあまり心が痛まないのもいい笑。ただ時々デザインがダサいやつがあるので、あれはやめてほしい。

    これが各フォーマットの入場者プレゼントのポスター。全部かっこよくてハズレはないですね。でも3作目の鑑賞記念としてならやはりIMAX版がベストかなと思います。
  • いにしえの深夜映画へ思いをはせる『デス・ゲーム ジェシカの逆襲』をBlu-ray鑑賞

    とにかくB級映画と呼ばれるジャンルが大好きで、とりわけ70〜80年代のものが大好物です。もちろん後にヒットメイカーとか巨匠と呼ばれるようになったジョン・カーペンターやデヴィッド・クローネンバーグ、ジェームズ・キャメロンらの初期作品には格別の思い入れがあるし、彼らがビッグになる前からその才能に注目していたという自負もある。低予算作品こそ、監督のセンスや技量の見せ所だし、後に花開く才能の片鱗が見えるのもすこぶる楽しいものです。

    しかしそんな作品たちはB級作品のごく一部であり、そのほとんどは注目も再評価もされずに人々の記憶から消えていく運命にある。まさに「知る人ぞ知る」作品となっていく。今回紹介する作品も恐らくそんな1本と言えるだろう。

    ネット情報によると、この1986年オーストラリア映画『デス・ゲーム ジェシカの逆襲』は、日本では劇場公開されず、イベントで上映されたのみで、深夜枠でテレビ放送されたものを観た人の数の方が圧倒的に多いようだ。そんな作品でありながら、「意外と面白かった」という印象を持っている人がいっぱいいるのだから世の中捨てたものではない

    というわけで、製作から約40年も経とうとしているというのにUHDリマスターのBlu-ray&DVDが発売された。Amazonのおすすめにこの作品が出てきた時、一目で僕好みの作品だと思ったが、買うのを1年以上も躊躇してしまった。人並みに「とんでもない駄作だったらどうしよう」と思ってしまったのだが、うかうかしていると市場から商品が消えてしまいそうなので観念して購入。届いたその日にワクワクしながら鑑賞したが、まあ予想通りのグダグダ感と楽しさをたっぷりと味わうことになった。

    オーストラリアの動物保護区で馬や犬、鳥たちとともに暮らしているジェシカは、車で街への移動中に、改造車に乗る3人の男たちに遊び半分であおられてしまう。鼻っぱしの強いジェシカは男たちに抵抗するが、そのことが男たちに火をつけてしまい、ジェシカは彼らに執拗に襲われることになる…というストーリー。

    もちろん、サブタイトルにあるように後半はジェシカが反撃に転ずるわけだが、まあ見事なB級映画である。もう少しずつ脚本と演出を練れば『マッドマックス』までは行かなくても『マッドストーン』くらいまでは近づけそうな題材なのに、惜しいところでグダグダになってしまっているのが何とも愛らしい。

    一人暮らしの若い女性VS荒くれ男3人という、これ以上ない単純なプロットなのに、それぞれのキャラクターの感情が全く掘り下げられず、行動の動機がゆるゆるなので、まったくサスペンスが生まれないのである。実にもったいない。

    西部劇のような広大な大地での対決になるので、キャラクターやセット、登場する車のショボさはそんなに気にならないが、肝心のアクションシーンがどうにもこうにもキレがなく、高揚感が生まれないのもトホホである。

    それでも後にタランティーノが『デス・プルーフ』でオマージュした、ジェシカを半裸にして改造車のボンネットに縛り付け、荒野を疾走するシーンなど印象的なショットもいくつかあったりして、才気がないわけでもないというところが実に憎めない笑

    まあ結論を言うと、深夜に何となく観たら意外と面白かった的な映画で、尺も82分と観やすいし、エロもアクションも程よくあるし、そもそも本気になって怒るほどのこともない小品と言う感じ。けなしてばかりのように思うかもしれませんが、僕はこのBlu-rayを買って損したとは1ミリも思っていません。「何年かしたらまた観たくなっちゃうかもしれないな」くらいの魅力は十分あります。『デス・プルーフ』や『マッドストーン』や『ヒッチハイク』や『REVENGE リベンジ』なんかが好きな人にはぜひ観てほしい、いにしえの作品です

    『デス・ゲーム ジェシカの逆襲』監督:マリオ・アンドレアッシオ 2025年12月17日 Blu-ray字幕版にて鑑賞

    蛇足的追記:

    🔳Blu-ray画質は可もなく不可もなく。元々が80年代のフィルム撮影なのでこんな感じでしょう。パッケージのイラストはこのBlu-rayのために描かれたのでしょうか?とてもいいです。このパッケージイラストに惹かれてこのBlu-rayを購入したと言っても過言ではありません。

    🔳僕は少し前にAmazon primeで『REVENGE リベンジ』(2017年)を観ましたが、ほぼ同じような映画でしたね笑

  • ネタバレ厳禁って程じゃないけど情報はあまり入れずに観た方がいい『WEPONS/ウェポンズ』

    この映画がアメリカで大ヒットしている、という情報を聞いてから、いつか日本で公開される日まで、極力この作品についての情報を見ないようにしよう、と決めた。情報過多な昨今、気を抜くとネタバレ記事やおいしいシーンの映像を見てしまうことが多く、それがこの手の映画の鑑賞時に致命傷となることが多いと思っているので気をつけていた。

    というわけで、ようやく『WEPONS/ウェポンズ』が日本公開された。公開週の平日夜の回に映画館へ向かうと、大きめのスクリーンでの上映だったがお客さんは5〜6割の入り。観やすい席はほぼ埋まっている。

    もちろん予告編も見ていないし、どんなストーリーか、誰が出ているかも知らずに映画を観るのはとてもワクワクする経験だ。

    少しだけストーリー。アメリカのある小さな街で、ある学校のクラスメイト17人が水曜日の深夜2時17分、暗闇の中に走り出して姿を消した。クラス担任の女性教師ジャスティンは集団失踪事件に関与しているのではないかと疑いをかけられ、その真相に迫ろうとするが、この日を境に街には不可解な事件が多発していく…。

    ネタバレ厳禁の映画なので、僕の感想も含めてあまり多くを記すのはやめておこうと思うけど、70年代のB級ホラーや、ジョン・カーペンターやデヴィッド・クローネンバーグらの初期の作品、スティーブン・キングの小説なんかが好きな人は絶対に観た方がいいです。不穏なドキドキ感やショック・シーンがたっぷりあって楽しめること請け合いです。

    『WEPONS/ウェポンズ』監督・脚本・製作・音楽:ザック・クレッガー @池袋グランドシネマサンシャイン シアター6

    以下少しネタバレありの蛇足的追記:

    🔳低予算B級映画だと思っていたので主演のジョシュ・ブローリンをはじめ『ドクター・ストレンジ』のベネディクト・ウォン、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』のオールデン・エアエンライク、『ストリート・オブ・ファイヤー』のエイミー・マディガンなど名のある俳優たちも結構出ていてびっくりしました笑

    🔳あまり予算もかけているようには見えませんが、画作りが丁寧なのでしょぼい感じが全くなく、ちゃんと緊張感が途切れないように作ってあるのはさすが。画面が本当に美しくて、人によってはトラウマ級の恐怖体験になるかもしれませんね。監督・脚本・製作・音楽のザック・クレッガーという名前は覚えておいていいかもしれません。

    🔳最後までワクワクしながら見ましたが、タイトル『WEPONS/ウェポンズ』の意味するものとか、起こっている事件が何のメタファーになっているのかなどが、もうちょっとだけ明確になっていたらものスゴイ傑作になっていたような気がします。そこは少し惜しかった。

    1976年公開『ザ・チャイルド』傑作です!オススメですが、今やBlu-rayを購入するしか観る手段がない。値段がもう少し安かったらな…

    🔳この映画を観ていて思い出したのは1976年公開のスペイン映画『ザ・チャイルド』。ある孤島にバカンスにやってきたイギリス人夫婦が島に大人が全くいないことを不審に思っていたら、子供たちが…?!というお話。直接的には描かれていないけれど、歴史的に世界中で小さな子供たちを虐げてきた大人たちへ静かな怒りみたいなものが、島の子供たちの眼差しの中に宿っていて、すごく心に残りました。そういうものが『WEPONS/ウェポンズ』でもうっすらでいいから見えてくると良かったなと思いました。

  • 60年前すでに完璧なスタイルを築いていた名作『サウンド・オブ・ミュージック』に改めて感嘆

    製作60周年を記念して、1965年公開の名作ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』が期間限定で劇場公開された

    僕がこの作品をちゃんと観たのは割と最近(と言っても10年くらい前だが笑)。それまではテレビ放送されたものを途中から観たことがあったりしただけで、なんとなく観たような気になっていたのだ。で、10年ほど前に確か『午前10時の映画祭』だったと思うが、ちゃんと劇場でノーカットで全編をしっかりと観た。

    その時思ったのは「なぜこんな素晴らしい映画を今までちゃんとした形で観ずにいたのだろう」という後悔だった。先人たちが「名作、名作」などと言っているものはなんとなく敬遠したくなるもので、僕もそんな感じで積極的に観たいとは思っていなかった。でも実際に観てみたら上映時間3時間の間、一瞬たりとも飽きさせない傑作だった。

    まずは楽曲の素晴らしさ。今やスタンダートとして誰もが知っている曲のオンパレードで、誇張なしに全部名曲である。その楽曲たちを最大限に活かした見事なミュージカルシーンと物語の面白さ。ジュリー・アンドリュース、クリストファー・プラマー、そして子供たちの生き生きとした演技。天才的な監督ロバート・ワイズの演出。美しいオーストリアのロケーションと、どれをとってもダメなところがない。

    映画を観た後、調子に乗って劇団四季版の舞台も観に行ってしまったくらい、この作品の素晴らしさに打ちのめされてしまった。ちなみに四季版も実に良かった。もうこの作品は、映画化される前のブロードウェイ・ミュージカルの時点でそのスタイルを完成させ、何十年もの間世界中の多くクリエイターに影響を与え続けているのだな、と驚嘆した。

    で2025年11月、映画製作60周年を記念した劇場公開が行われたわけだ。僕はTOHOシネマズ日比谷で鑑賞したが、なんとスクリーン5というキャパ386席というかなり大きめのシアターでの上映だったことに驚いた。そしてかなり早い段階からチケットがどんどん売れていき、当日朝には完売状態だった。劇場に集まった観客はもちろんオールドファンが多かったけれども、皆さん新作映画を観るように熱い視線をスクリーンに注いでいた。みんな大人なので静かに観ていたが、本当はトラップファミリーと一緒に歌いたかっただろうな、と思った。

    先日観た『アマデウス』も同様だったが、何十年経っても人々がお金を払ってスクリーンで観たいと思う作品というのが真の名作であると僕は思う。劇場でこの作品を観るのは3回目だったけれども、これからまた何度でも観たいと改めて思えた3時間であった。

    2025年11月29日(土)@TOHOシネマズ日比谷 スクリーン5

    蛇足的追記:

    今回少し残念だったのは、TOHOシネマズ日比谷のスクリーン5のフルスクリーンでなくビスタフレームでのトリミングシネスコ上映だったこと(1.85:1のビスタフレームの中に2.35:1のシネマスコープフレームが収まってて、上下が黒味が出る)。

    これはおそらく、上映素材が、新たに発売される4K UHD用のマスターだったと思われ、これが一般家庭用テレビ用の16:9(ビスタとほぼ同じ)フレームで作られているからであろう。

    映画『サウンド・オブ・ミュージック』製作60周年記念版 4K UHD+Blu-rayセット 
    2026年1月21日発売 

    『サウンド・オブ・ミュージック』のオリジナルフレームはシネマスコープ(2.35:1)なので、本来TOHOシネマズ日比谷のスクリーン5なら、フルスクリーンで上映されるはずだが、上記のような経緯で今回は少し小さめのフレームになってしまった。難しいだろうけど、もしこの情報が事前告知されていればもう少し前の席を取ったのになあ〜と思ったが、後の祭りである。まあ、貴重なスクリーン鑑賞の機会だったし、その4Kマスターのおかげで映像は綺麗だったのでよしとするか。

    こういうのはたまにあって、リブート版の『ゴーストバスターズ』(2016年)とかクリストファー・ノーランの『テネット』(2020年)とかも、期待してフルシネスコの映画館を選んだのにビスタのトリミングシネスコ上映でがっかりした。こういうのは作品の内容以前に気分が落ちる。昔は映写技師がちゃんとフレームを合わせてくれたものだが、シネコン時代となった今は、そういう融通は効かないのでしょうね。

    そういえばこの作品と同じロバート・ワイズ監督の『ウエストサイド物語』(1961年)をスティーブン・スピルバーグが2021年にリブートしましたが、全然ダメでしたね。『サウンド・オブ・ミュージック』も映画のリメイク、リブートはやめて欲しいです笑。

  • 『アマデウス』40年の時を超えてスクリーンに蘇った愛と嫉妬の愉楽

    我々世代にはたまらない名作上映企画『午前十時の映画祭』で1985年日本公開の『アマデウス』4Kレストア版が上映されることになった。もちろん公開当時に劇場鑑賞し面白く観た記憶はあるが、それ以降1回も観ていなかった。

    というのも、当時は僕はまだ若く、この映画について少し「真面目で堅苦しい」という印象を持ったのかもしれない。なので、今回の上映も観るべきかかやめるべきか迷った。さらに最寄りの映画館が池袋グランドシネマサンシャイン・シアター6で、ここはアップグレードのBESTIAスクリーンで追加料金が300円かかってしまう。4Kレストア版とはいえ、40年前の映画に追加料金300円出す程の価値があるかな?と、正直悩んでいたのだ。

    で、グズグズしていたのだが結局「見逃して後悔するより観て後悔だ」と気持ちを切り替え、公開2週目の日曜日にチケットを押さえて劇場へ向かった。上映シアターのキャパ235席はなんと満員。朝9時55分スタートの回なのにオトナの観客ですごい熱気だ。

    ピーター・シェーファー作ブロードウェイの舞台劇を『カッコーの巣の上で』のミロス・フォアマンが映画化。天才音楽家ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトの知られざる半生を、彼を妬む宮廷作曲家サリエリの視点で描く物語。すっかり忘れていたが米・アカデミー賞の作品賞、監督賞、主演男優賞(F・マーレイ・エイブラハム)など堂々8部門を受賞している名作である。

    で、40年ぶりとなる再鑑賞の感想だが「凄まじく面白かった!」。上映時間2時間41分があっという間に過ぎていく。特に印象に残るのはやはりサリエリのモーツアルトへの嫉妬と尊敬がせめぎ合うクライマックスのシーンだが、それ以外にも85年当時は気づけなかったことも色々わかるようになって、初めて観た時よりも深く感動した。

    なんといっても全編映画としての精度の高さが圧倒的だ。隙のない濃密なドラマの中に、モーツアルトの名曲の数々を「これでもか!」とバンバン挟み込んでくる。まさにモーツアルトのオールタイム・ベストを彼の生涯の物語付きで鑑賞できるゴージャスな体験だ。しかも今回観た池袋の劇場はめっちゃ音が良くて、深く響いたり、広く包み込まれるようになったりと本当に素晴らしかった。さすが300円の追加料金をとるだけのことはある(しつこい笑)。

    そして驚いたのは観客のほぼ全員が、ものすごい集中力で映画を見ていたということ。もちろん売店でポップコーンやスナックを買ってきている人もいたけど、バリバリものを食べるような音を立てる人は一人もいなかった。まるで観客全員が劇場を満たす音楽を一音も聞き漏らさないようにしているかのようだった。

    さらにエンドロールに入っても誰も席を立たず、終わった瞬間には結構盛大な拍手が起こった。僕も「コンサートじゃあるまいし」とか思いつつ、一緒に拍手してしまった。日本人はシャイだから、もちろん観客全員ではなかったけれど、多くの人がこの映画を心から楽しんだことがわかる、実に感動的な劇場体験でした。観るのをやめないで本当に良かった。

    いつかまたこの作品が劇場公開されたら、今度は何十年も空けずに必ず観に行きたい。その時もぜひグランドシネマサンシャインの素晴らしい音響と大きなスクリーンでの上映だったらいいなと思う。ちゃんと追加料金300円払いますから笑。

    11月16日(日)@池袋グランドシネマサンシャイン シアター6BESTIA

  • 『平場の月』を見上げながら、井川遥の主演女優賞を祈る

    山本周五郎賞を受賞した朝倉かすみさんの小説を『ハナミズキ』(2010年)、『花束みたいな恋をした』(2021年)の土井裕泰監督が映画化。僕はラブストーリーは苦手だけれど、50代の恋愛ということで興味が湧いたのと、個人的に高く高く評価している『映画ビリギャル』(2015年)の監督でもある土井監督のメガホンということで映画館へ。公開1週目の平日夜の回は6割程度の座席が埋まっていて、落ち着いた大人のいい雰囲気だった。

    離婚して地元へ戻り、印刷工場に再就職した青砥健将(堺雅人)は、病院の売店で偶然中学時代の初恋の相手だった須藤葉子(井川遥)と再会する。彼女もまた夫と死別し地元へ戻っていたのだ。互いに独り身となり、離れていた時間を取り戻すように過ごす二人は、再び惹かれ合うようになるが…というストーリー。

    静かに淡々と進んでいく映画のテンポが心地よくて、役者は皆笑っちゃうほど適役で芝居が上手く、演出も抑制が効いていて心に染みる実にいい映画でした。

    この映画を若い人たちが観るのかどうかはわからないけれど、40代以上の人なら確実に心に刺さる映画なのではないだろうか。50代という人生の終盤に差し掛かる年齢になると、いろんなことが思うようにはいかない。恋愛だって、若い時のようにはいかない。そういうことをこの映画は丁寧に丁寧に描いていく。

    そして、物語の終盤で井川遥演じる須藤葉子は、普通ならあまりやらないような、ちょっと驚くような行動を取ってしまうことになるのだけれど、同年代(かそれ以上)の人たちにはその気持ちがわかりすぎるほどわかってしまうのが実に切ない。

    主演の堺雅人は、TBSの日曜劇場で見せるような圧倒的オーラを消して、地味な一般の男を演じていて素晴らしい。そして井川遥が、想像以上の存在感を放って心にのこる演技を見せてくれる。これは嬉しい誤算というか、予想以上のサプライズだった。

    モデル出身の女優である井川遥は美しいし、いいお芝居をするけれど、一般的に演技派というふうにはみられていないと思う。僕は2002年公開の『tokyo.sora』(監督:石川寛)という映画を観て、とても素晴らしい感性の女優さんだと思っていたけれど、ずっと主演で立つタイプの女優というふうには見ていなかった気がする。

    この映画での彼女はいわゆる泣き叫んだり、狂気を見せるような役柄ではないので、演技の評価はわかりにくいかも知れないけれど、須藤葉子という、かたくなで、強く、そして弱い女性の複雑さを井川遥は見事に表現していた。これはやはり、20年以上様々な作品に出演しながら年齢を重ねてきた彼女の実人生が役と重なって見えるからで、抗えない身体の衰えとか、そういうところも込みで本当に素晴らしかった。できれば彼女に今年の主演女優賞を獲ってほしいと思うほどだ

    それと、この作品は埼玉県朝霞市が舞台で、実際にロケも行われている。駅周りや河原、路上といったごくありふれた日常的な場所が物語の舞台となるのだが、これがまた実に効いている。朝霞の風景には、これは日本のどんな場所でも起こりうる、ごく普通の人たちの物語だという説得力があってとてもよかった。さらに主人公ふたりの中学時代の回想エピソードのロケーションも、現代パートとリンクしていて素晴らしかった。

    僕はどうしてもテレビ局所属で映画を撮る監督というものを、あまり信用できないという偏見を持っているのだけれど、土井監督はさすがの実力者だなと認めざるを得ない完成度の映画でした。そして脚本は向井康介。原作が素晴らしいのは前提ですが、脚本も実に研ぎ澄まされていて名脚本だと思います

    11月18日(火) @TOHOシネマズ池袋 スクリーン8

    蛇足的追記:

    🔳それにしても出てくる役者が皆、役にピッタリすぎて笑ってしまいました。大森南朋、宇野祥平、でんでん、安藤玉恵、柳俊太郎、黒田大輔、松岡依都美、前野朋哉、吉瀬美智子、成田凌などなど。キャスティングディレクターさんは天才ですね。

    🔳キャストでびっくりしたのはまず中村ゆり。「中村ゆりそっくりだな〜」と思ってたら本人だった笑。あまりにも清楚で妹感があって、これまで他の作品で見てきた彼女のイメージと全然違っていたので驚きました。出番は少ないけどとても印象的なお芝居でした。

    🔳そして塩見三省さん。何年か前に脳出血で倒れられて、だいぶ痩せられていましたが、存在感のある役を立派に演じられていて感動しました。

    🔳さらに椿鬼奴さん。引きの画であまりにもさりげなく出られていたので最初気づかなかったのだが、「あれ?この声は…」と思ったらやはり鬼奴さんだった。ラスト近くに大事な芝居があって、実はとても重要な役だったことが最後にわかるのだが、こういう芝居をサラッと演じられるんだから、芸人さんって本当に凄いなと思いました。

    🔳11月18日の深夜には、主題歌を担当した星野源さんが自身のラジオ放送「オールナイトニッポン」に土井監督と那須田プロデューサーを招いて、この映画の裏話をたっぷり紹介していました。興味深いエピソードが満載だったので気になった方はぜひradikoなどで聴いてみてください。

  • 公開初日から怒涛の細田叩きが荒れ狂う『果てしなきスカーレット』を曇なき目で観る

    『時をかける少女』(2006年)、『サマーウォーズ』(2009年)の細田守監督の最新作。11月21日(金)公開初日の夜の回に観に行ったが、近年の新作劇場用アニメーションの初日とは思えない観客の少なさにちょっと驚いた。これは細田守作品への期待値の低さ、あるいは警戒感がだいぶありそうだ。ネット上のレビューには早くも激しい賛否両論の意見が飛び交っているが、僕が見たところ「否」の意見が多い。ある程度予想できた事態ではあるが、こういう場合、まず肝心なのは周りの意見に左右されず、「曇りなき目(まなこ)で」作品に接することだろう。

    16世紀末、デンマーク国の王女スカーレットは、父親を殺した叔父・クローディアスへの復讐に失敗し、《死者の国》で目を覚ます。そこは人々が略奪と暴力に明け暮れる世界で力のない者や傷ついた者は《虚無》となってその存在が消えてしまうスカーレットはそこで現代の日本からやってきた看護師・聖と出会う一方で、敵であるクローディアスがこの世界にも居ることを知る。改めて復讐を誓ったスカーレットは、聖と共に旅をしながら父の仇を追う…と言うお話。

    で、僕の感想は「面白くは観たけれど、残念ながら心は震えなかった」である。細田作品の中で順位をつけるなら、『未来のミライ』(2018年)、『竜とそばかすの姫』(2021年)よりほんの少しだけ上という感じ。つまり『時かけ』と『サマーウォーズ』を最上位として、中間の『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)、『バケモノの子』(2015年)よりかなり下に位置する、といった感じになる。

    物語は「細田版ダーク・ファンタジー」と言う感じで、シネマスコープのスクリーンサイズを生かしたダイナミックな映像表現は特に興味深かったし、アクションシーンなども見応えはあった。豪華な声優陣の芝居も見事だったし、平和へのメッセージもきちんと伝わってきた。

    ただ、多くのアニメーション監督が陥りがちな「独りよがりな世界観の中での都合の良い作劇」に細田監督も陥っている感じがした。この映画は中世デンマークを基本舞台とし、メインとなる「死者の国」と、聖が生きていた現代日本の三層構造となるが、その三世界をつなぐメカニズムとルールが実に曖昧なのだ。謎の老婆(声:白石加代子 名演でした)が登場して、一応解説はするのだが、取ってつけたような後出しジャンケンみたいな感じご都合主義的展開が続き、何だか全然話に乗っていけない、ハラハラドキドキもしない、というのが、この映画に没入できない最大の要因だろう。

    多くのレビュアーが言っている「細田監督は別の脚本家を立てるか、共作すべきでは」と言う意見に、残念ながら僕も賛成する。今や日本を代表するヒットメイカーであり、アニメーション監督である細田守にものを言うのは難しいだろうが、監督の構想に対等な立場で客観的な意見を言う人はやはり必要なのではないだろうか?

    とはいえ細田監督は『時かけ』『サマーウォーズ』を手がけた才人だし、まだ若いのだから、これからまだまだ傑作を作れるはず。あまりスケールを広げすぎずに、地に足のついた作品を生み出して欲しいものだ。

    11月21日(金)@TOHOシネマズ池袋 スクリーン6

    蛇足的追記:

    ▪️別に入場者プレゼントが欲しいとは言わないけれど、昨今のアニメーション映画は入場特典が充実していて、それも映画館へ足を運ぶ楽しみになっていると思う。この映画もポストカードとか、ミニポスターとか、その程度でいいので何か用意してもよかったのではないだろうか。慌てて用意したようなショボいシールをもらったけど正直「なんじゃこれ」と言う感じでがっかりでした。

    ▪️「芦田愛菜の演技が良くない」と言う意見も多く目にしたけれど、僕はそうは思わなかった。他のどんな作品にも似ていないオリジナルなヒロイン像をきちんと演じていたと思う。演技的に拙いところがあったとしても、それ込みでキャラクターの味だと僕は思う。あと、基本的に声優陣は名の知れた有名な俳優さんたちが演じているのだが、総じて皆さんいい意味で自身の顔をイメージさせない素晴らしい演技だったと思います。エンドロールで、「えーあの人が演じていたのか」と驚かせてもらいました。

    ▪️特にプロダクションデザインや背景、美術が実写的すぎると言うことも感じたけれど、これはアニメーションの新しい表現として、まあ許容できる。日本のアニメーションの魅力である「手描き作画感」は大事にして欲しいと思うけれど。

    ▪️アクションシーンは素晴らしかった。モーションキャプチャーで実際に俳優に演じてもらったデータを取り込んでアニメ化していると思うが、リアルとアニメ的な非現実感のちょうどいいバランスを取っていて表現として実にうまかったと思う。カットを割りすぎないのが今風で、キャラクターがとのように体を使っているのか(スピード感とか重力)がわかるのでとてもよかった。

    ▪️クライマックスのクローディアスの最後のシーンは、これぞ日本製アニメーションの真骨頂、と言う感じで素晴らしい表現だった。背景美術の効果と、役所広司さんの名演技も相まって凄まじいド迫力で「悪魔の断末魔」を見せてくれたと思う。細田守はこのような素晴らしい表現ができる監督なのだから、観客のみなさんもあまり叩きすぎないように、温かく見守っていきましょうよ笑。

  • この魅力を伝えるのは難しいが、不思議な情感がとめどなく溢れ出る『旅と日々』

    『ケイコ 目を澄ませて』(2022年)、『夜明けのすべて』(2024年)の三宅唱監督の最新作。2022年の僕の日本映画ベスト作品である『ケイコ』の三宅監督最新作を見逃すわけにはいかない。と、いうわけで公開初日から1週間経った映画館へ足を運んだところ、意外にも(?)お客さんは6〜7割程度入っていてびっくり。

    原作はつげ義春の漫画『海辺の叙景』と『ほんやら洞のべんさん』。映画の前半は、行き詰まっている脚本家の李(シム・ウンギョン)が構想する物語で、夏の海で高校生らしき男と陰のある女(河合優実)が出会い、雨の中の荒れた海で泳ぐ…という話。後半は気分転換に旅に出た李が、雪深い寂れた宿に辿り着き、ものぐさな主人・べん造(堤真一)と過ごす数日を描く。

    淡々と、筋立てらしい筋立てもなく物語は進み、半ば唐突に終わる。僕は「ガロ」の熱心な読者ではなかったが、何作かつげ義春さんの作品は読んだことがあるので、どういう作風なのかは知っていた。そういう意味ではつげさんの漫画のトーンをそのまま生かした映画になっていると感じた。

    もちろん物語はあるのだが、いわゆる起承転結のようなわかりやすい作劇がないので、苦手な人は苦手だろう。でも僕が観た回にいた観客たちは皆、ここで描かれている世界を楽しんで観ていたようだった。笑いもあったし、その淡々とした時間の流れに身を委ねて、心地よい感覚を味わっていたように思う。

    主人公を演じるシム・ウンギョンは本当に不思議な女優だ。『サニー 永遠の仲間たち』(2011年)、『怪しい彼女』(2014年)という韓国コメディ史に残る2大傑作に主演した名女優でありながら、日本映画への出演を積極的に続け、『新聞記者』(2019年)では何と日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞まで獲得してしまった。今回の作品も決してわかりやすい内容ではなく、日本の女優であっても演じるのは難しいと思うが、彼女はいたって飄々と存在感を発揮し、すんなりこの世界の住民となっているように見える。

    河合優実も然り。近年、破竹の勢いでさまざまな映画、ドラマに出演し続け、それぞれの作品でしっかりと強烈な印象を残している彼女。今回の彼女の魅力をあえて挙げるなら、自身のセクシーさに制限をかけず、肝の座った存在感を見せてくれるところだ。最近の女優は少し人気が出てくると、「水着はダメ、下着もダメ、ベッドシーンなんてもってのほか」などとやたらイメージに制限をかけてくるが、河合優実はそういうところが微塵もない。ちゃんと監督や原作者に対する信頼と理解ががあるのだなと感じられる。だからこそ彼女は多くの優秀なクリエイターに求められているのだ。

    そして、こういうジャンルの映画にあまり出演しているイメージがない堤真一が出演している。彼もまた、パブリックイメージとは一味も二味も違うド田舎の変なオヤジを楽しそうに演じていて、シム・ウンギョンと絶妙な絡みを見せてくれる。

    さらに二つの物語の間を繋ぐブリッジ部分には「つげ義春世界」の住人とも言える佐野史郎も登場。あまりにもこの世界に馴染んでいて笑ってしまうほどだ。

    スタンダート・サイズで切り取られた青い海、雨の海、深い雪、つらら、夜の池など美しい風景もいっぱいで、物語の情感をたっぷり味わうことができる。この映画の魅力を人に伝えるのは難しいが、「この映画が表現している情感に共鳴できる人は信頼できる」と思わせてくれる、貴重で不思議な映画なのだ。

    『旅と日々』監督:三宅唱 (11月14日 @池袋グランドシネマサンシャイン シアター7)

    追記的雑談:

    この映画のスクリーンサイズはスタンダード(1:1.33)。最近『七人の侍』や『ミーツ・ザ・ワールド』など、スタンダードの映画を結構観ている。平たく言うと昔のテレビのサイズで、正方形に近い。映画はビスタ(1:1.85)やシネマスコープ(1:2.35)が主流だが、スタンダードにも独特の味わいがある。『どん底』までの黒澤明作品や根岸吉太郎監督の『遠雷』、伊丹十三監督の『マルサの女』などもスタンダードだ。MGMミュージカルなど、人間の全身を使った踊りを見せるとか、縦構図の動きが多い映画などはスタンダードが効果的だし、通常のドラマ作品でも表情や密度を重視した作品には向いている気がする。

    ただ、唯一気をつけなければならないのは、その劇場のフルスクリーン状態がシネマスコープの場合、画面の両側がかなり狭まり画面が小さく感じることになる点。なのでそういう劇場の場合は、いつも観ているポジションよりやや前に座らなければならない。

    映画を理想的な大きさで観るためには映画のスクリーンサイズ、劇場のスクリーンのサイズ、座席数・配置をあらかじめチェックしておかなくてはならならいのだ。チケット代もバカにならない昨今、映画ファンの飽くなき研究は今日も続く笑。