
『時をかける少女』(2006年)、『サマーウォーズ』(2009年)の細田守監督の最新作。11月21日(金)公開初日の夜の回に観に行ったが、近年の新作劇場用アニメーションの初日とは思えない観客の少なさにちょっと驚いた。これは細田守作品への期待値の低さ、あるいは警戒感がだいぶありそうだ。ネット上のレビューには早くも激しい賛否両論の意見が飛び交っているが、僕が見たところ「否」の意見が多い。ある程度予想できた事態ではあるが、こういう場合、まず肝心なのは周りの意見に左右されず、「曇りなき目(まなこ)で」作品に接することだろう。
16世紀末、デンマーク国の王女スカーレットは、父親を殺した叔父・クローディアスへの復讐に失敗し、《死者の国》で目を覚ます。そこは人々が略奪と暴力に明け暮れる世界で力のない者や傷ついた者は《虚無》となってその存在が消えてしまうスカーレットはそこで現代の日本からやってきた看護師・聖と出会う一方で、敵であるクローディアスがこの世界にも居ることを知る。改めて復讐を誓ったスカーレットは、聖と共に旅をしながら父の仇を追う…と言うお話。

で、僕の感想は「面白くは観たけれど、残念ながら心は震えなかった」である。細田作品の中で順位をつけるなら、『未来のミライ』(2018年)、『竜とそばかすの姫』(2021年)よりほんの少しだけ上という感じ。つまり『時かけ』と『サマーウォーズ』を最上位として、中間の『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)、『バケモノの子』(2015年)よりかなり下に位置する、といった感じになる。
物語は「細田版ダーク・ファンタジー」と言う感じで、シネマスコープのスクリーンサイズを生かしたダイナミックな映像表現は特に興味深かったし、アクションシーンなども見応えはあった。豪華な声優陣の芝居も見事だったし、平和へのメッセージもきちんと伝わってきた。
ただ、多くのアニメーション監督が陥りがちな「独りよがりな世界観の中での都合の良い作劇」に細田監督も陥っている感じがした。この映画は中世デンマークを基本舞台とし、メインとなる「死者の国」と、聖が生きていた現代日本の三層構造となるが、その三世界をつなぐメカニズムとルールが実に曖昧なのだ。謎の老婆(声:白石加代子 名演でした)が登場して、一応解説はするのだが、取ってつけたような後出しジャンケンみたいな感じ。ご都合主義的展開が続き、何だか全然話に乗っていけない、ハラハラドキドキもしない、というのが、この映画に没入できない最大の要因だろう。
多くのレビュアーが言っている「細田監督は別の脚本家を立てるか、共作すべきでは」と言う意見に、残念ながら僕も賛成する。今や日本を代表するヒットメイカーであり、アニメーション監督である細田守にものを言うのは難しいだろうが、監督の構想に対等な立場で客観的な意見を言う人はやはり必要なのではないだろうか?
とはいえ細田監督は『時かけ』『サマーウォーズ』を手がけた才人だし、まだ若いのだから、これからまだまだ傑作を作れるはず。あまりスケールを広げすぎずに、地に足のついた作品を生み出して欲しいものだ。
11月21日(金)@TOHOシネマズ池袋 スクリーン6
蛇足的追記:
▪️別に入場者プレゼントが欲しいとは言わないけれど、昨今のアニメーション映画は入場特典が充実していて、それも映画館へ足を運ぶ楽しみになっていると思う。この映画もポストカードとか、ミニポスターとか、その程度でいいので何か用意してもよかったのではないだろうか。慌てて用意したようなショボいシールをもらったけど正直「なんじゃこれ」と言う感じでがっかりでした。
▪️「芦田愛菜の演技が良くない」と言う意見も多く目にしたけれど、僕はそうは思わなかった。他のどんな作品にも似ていないオリジナルなヒロイン像をきちんと演じていたと思う。演技的に拙いところがあったとしても、それ込みでキャラクターの味だと僕は思う。あと、基本的に声優陣は名の知れた有名な俳優さんたちが演じているのだが、総じて皆さんいい意味で自身の顔をイメージさせない素晴らしい演技だったと思います。エンドロールで、「えーあの人が演じていたのか」と驚かせてもらいました。
▪️特にプロダクションデザインや背景、美術が実写的すぎると言うことも感じたけれど、これはアニメーションの新しい表現として、まあ許容できる。日本のアニメーションの魅力である「手描き作画感」は大事にして欲しいと思うけれど。
▪️アクションシーンは素晴らしかった。モーションキャプチャーで実際に俳優に演じてもらったデータを取り込んでアニメ化していると思うが、リアルとアニメ的な非現実感のちょうどいいバランスを取っていて表現として実にうまかったと思う。カットを割りすぎないのが今風で、キャラクターがとのように体を使っているのか(スピード感とか重力)がわかるのでとてもよかった。
▪️クライマックスのクローディアスの最後のシーンは、これぞ日本製アニメーションの真骨頂、と言う感じで素晴らしい表現だった。背景美術の効果と、役所広司さんの名演技も相まって凄まじいド迫力で「悪魔の断末魔」を見せてくれたと思う。細田守はこのような素晴らしい表現ができる監督なのだから、観客のみなさんもあまり叩きすぎないように、温かく見守っていきましょうよ笑。
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