全編IMAXカメラ撮影。上映時間2時間42分。『ワン・バトル・アフター・アナザー』は本当にすごいのか?

ポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作ということで、楽しみにしていました。この監督の作品はすごく好きなものもあるし、ん?と思うものもあるのですが、無視することはできない監督です。極力事前情報を入れず、予告やTVスポットなどの映像も見ずに、期待しながら映画館へ向かった。

レオナルド・ディカプリオ演じる元革命家のボブは、娘・ウィラと共にその素性を隠して平凡な生活を送っていた。だがある日、娘が何者かにさらわれてしまい、さらに過去に因縁のある軍人のロックジョー(ショーン・ペン)がボブの逮捕に動き出す。果たしてボブはロックジョーの追跡を逃れ、娘を取り戻すことができるか?というストーリー。

最初はシリアスな革命ものかと思ったら、途中から逃亡劇になり、犯罪サスペンスというか抗争劇みたいになり、さらにコメディ色も強くなる。面白いんだけどこれではポール・トーマス・アンダーソンというより、クエンティン・タランティーノの映画みたいになっていった印象。

上映時間は2時間42分。次々に展開があるので長くは感じないのだけれど、これだけの尺が必要な内容かと言われると、まあ2時間に収めようと思えばできるんじゃないかな、という感じだった。ポール・トーマス・アンダーソンの映画だと思うから多少構えて観ちゃうけど、知らない監督の作品だったら「長い。2時間にできるでしょ」って言っちゃうんだろうな。

またこの映画は全編IMAXカメラで撮影されていて、僕が観た池袋の劇場ではIMAXのスクリーン(1.43:1)をフルに使った上映だった。確かに迫力も物語への没入感もあるのだけれど「これ本当にIMAX撮影必要だったのかな」と思ってしまった。たとえば『アバター』とかクリストファー・ノーランのような作品ならIMAXで撮って上映する意義ってわかるんだけど、こういう抗争アクションみたいな作品って、シネスコなりビスタなりの計算された画角でキッチリ撮った方がスタイリッシュで効果的なんじゃないの、と思ってしまった。

ケチばかりつけて申し訳ないけど(笑)、軍人ロックジョー役のショーン・ペンと、ボブの逃亡を手助けする男を演じたベニシオ・デル・トロのキャスティングなんかも“いかにも”すぎて全然意外性がない。一時期、悪役と言えばデニス・ホッパーとか、ジョン・マルコビッチとか、クリストファー・ウォーケンとか、ゲイリー・オールドマンとかがキャスティングされて「またかよ、捻りがないな」「そのパターンはもう観た」と思っていたけどそんな感じだった。

他にも色々不満はあるんだけど、それもこれも期待値が高い監督の作品だからなんですよ。ポール・トーマス・アンダーソンといえば、『ブギーナイツ』(1997年)や

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007年)や

『ザ・マスター』(2012年)の監督ですからね。

これらは全部素晴らしかったし、彼にしか作れない映画だった。映画ファンはみんな、その監督にしか作れない映画を作ってほしいんですよ。それができる立場の人なんですから。

あと最大の不満を最後にもう一つ。この映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』、タイトルがおぼえられないんですよ!最近の洋画は本国の意向で「原題そのままで」にしなければならないのが基本らしくて、昔の『愛と青春の旅立ち』とか『愛と悲しみの果て』みたいな邦題はもう付けちゃいけないらしいです。でも『ワン・バトル・アフター・アナザー』ですよ?来年この映画のタイトルをどれくらいの人が正確に思い出せるだろうか?僕なんかここ数日この映画のことを何度も『バーン・アフター・リーディング』って言っちゃってたし。

2025年10月6日 @池袋グランドシネマサンシャイン シアター12

↑全然別の映画なのになんか似てる感じがするのは僕だけですか?