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  • 今、3D映画を観る意義はあるのか?『トロン:アレス』

    久々に3Dの映画を観た。この映画はIMAXとか4DXとかDolbytheaterとかさまざまなフォーマットで公開されているが、なぜかIMAXだと自動的に2Dになるらしく、仕方ないので通常シアターの3D版を見ることにした(サイズはシネマスコープ)。3D映画は一時期数多く製作・公開されたが、今やすっかり下火になってしまった。かく言う僕自身も3D映画を観るのは『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(2022年 監督:ジェームズ・キャメロン)以来なので3年ぶりか。とにかくこの映画には3Dが合っているという予感がしたのだ。

    ちょっと昔話。インベーダーゲームの波が襲来したとき、僕は中学生だったので、その洗礼をモロに受けた。しかし、ほぼ同時期に受けたYMOからの影響の方が遥かに大きかったので、コンピューターゲームには周りの友人たちほどハマらなかった。誰が作ったかわからないプログラムよりも、顔が見える細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏の作ったものの方が信頼度が高く共感し易かったのだと思う。根がアナログなのである。

    コンピューターゲーム・ブームの潮流の中で製作・公開された『トロン』(1982年 監督:スティーブン・リズバーガー)は、世界で初めてコンピューター・グラフィックスを全面的に導入した作品として話題となり、当時映画館にはインベーター・ゲーム小僧たちがわんさか押し寄せた。僕もその中のひとりだったが、CGによるキャラクターのデザインや、サイバー世界でのバイクによる対決などのビジュアルの鮮烈さに比べて、肝心のお話の方は何だか魅力がなくて、ほぼ記憶から抜け落ちてしまった。

    2010年公開の続編『トロン:レガシー』に関しては、観たことは観たのだが、ほぼ記憶から消失してしまっていて、かろうじて覚えているのはダフト・パンクの音楽はすごく良かったということぐらいか。まあそんな感じの映画だったということだろう。

    前置きが長くなった。新作『トロン:アレス』である。大して面白いという印象もないこのシリーズを、なぜ律儀に公開初日に観に行くのか?それは兎にも角にも“インベーダー・ゲーム世代”だから、に他ならない。ゴジラや007の新作を「観ない」と言う選択肢がないのと同じで問答無用で映画に「呼ばれている」感じがします。『スター・ウォーズ』や『ワイスピ』も同じ。

    ある企業が開発した「AI戦士を実体化する」プログラムが暴走し、サイバー世界の存在たちが現実世界に侵食し始める…という物語で、まあ身も蓋もない言い方をすれば「何回やってんだよ、このパターン」である。だが、その映像表現はやはり進化著しく、アップデートの出来栄えを確認するに値する完成度だ。特にトロンに登場するお馴染みのバイクが走り回るチェイス・シーンや、ホッチキスの針みたいな形の(笑)浮遊メカの戦闘シーンなどはさすがというほかない。

    主人公のAI戦士“アレス”役を演じるのはジャレッド・レト。彼の何を考えてるか全くわからないような表情が、とてもこの役に合っていて、その目が時に悲しみをたたえたりするのが何とも素晴らしかった。記号的なキャラクターばかりで印象に残らないこのシリーズの中で、最も“血の通った”キャラクターなのではないかと思うほどだ。

    この作品はシリーズ3作目だが、全2作を観ていなくても問題なく、完全新作のストーリーとして楽しめるのがまずいい。最近のアメコミ映画などは、よくわからない設定やどこから出てきたのかわからないキャラクターが突然出てきたりして「は?」となって真面目に観る気が失せる作品が多いが、とにかくこの作品は単独で楽しめる。むしろ前2作を観ていないなら、その方がより楽しめるかもしれない。

    そして、3Dで観た意味があったか?と言うことだが、答えは「あった」である。巻頭のディズニー・マークから始まり(笑)、トロン・バイクの疾走感や、浮遊メカの巨大感など3D映画としての醍醐味は十分堪能できる。IMAXと見比べてはいないのでどちらががいいかは断言できないが、作品世界への没入感、物体が奥行きを持ってスピーディに動く爽快感はかなりあって、アトラクション・ムービーという、この手の映画の楽しさを久しぶりにたっぷり味わえました。

    最後にボヤキを一つ。以前、3Dメガネを持参して映画館に行った時、入り口で「この古いメガネでは観られません。IMAX Laserというハイグレードの3Dメガネが必要です」と言われてその場で購入し直した。そうしたら今回は「IMAX Laserのメガネでは観られません。売店でメガネを買い直してください」とまた言われてしまった。今度は「REAL 3D」のメガネじゃないとダメらしい。全く今までこんなことを何回繰り返したのだろうか。たかだか200円の話だけれど、3D映画を観る度にこんな調子だと、みんな敢えて3D映画を観に行こうという気にならなくなっちゃうんじゃないのかな。

    『トロン:アレス』2025年 監督:ヨアヒム・ローニング 2025年10月10日@TOHOシネマズ日比谷 スクリーン9 3D版