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  • 還暦オヤジ怒りの鉄拳!ドニー・イェン監督・主演『プロセキューター』

    チャップリン、キートン、ロイドの時代から、アクションは映画の基本であり最大の魅力だ。アクション映画はまさに私たちに“映画を観る喜び”を堪能させてくれるジャンルである。その“映画の魅力”を最大限に表現できる数少ない希代の映画スター、ドニー・イェン(62)の監督・主演最新作がやってきた。これは何をおいても観に行かなければならない。

    香港出身で今や世界中で活躍するドニー・イェンだが、僕がこの俳優の魅力に気づいたのはそんなに昔ではない。2016年『ローグワン/スター・ウォーズストーリー』の時だ。盲目のパルチザン、チアルートを演じていたドニーはハリウッド大作の国際的な俳優たちの中であっても、ただならぬ妖気をまとって作品の中で存在感を発揮し、流麗な動きで見るものを魅了していた。その後2021年の『レイジング・ファイア』でドニーの主演作を初めて劇場で鑑賞した僕は、年齢をものともしないキレキレアクションに圧倒され、すっかり大ファンになってしまったのだ。

    その後の『ジョン・ウィック/コンセクエンス』(2023年)などを経て公開された今回の主演作でドニーが演じるのは、警察を辞職して検事となったフォク。彼は貧しい青年キットがコカインの密輸事件で有罪を認めたことに違和感を抱き、検察内部の圧力と対立しながら陰謀を暴こうとするというストーリー。物語はシンプルでいかにも荒唐無稽だが、なんと実話がベースとのことで、ラストはまるで『アンタッチャブル』(1987年)のような爽快感が味わえる。

    そして言うまでもなくアクションシーンはもう凄まじく、普通の人なら30回は死んでるような激ヤバアクションを現在62歳のドニーは(もちろん他のキャストも)当たり前のように次々に見せてくれる。

    その昔、映画における格闘シーンの多くは「決められた動きを演じている」という印象のものが多かった。それはもちろん撮影現場や俳優たちの安全のために大切なことなのだが、観客としては「なんか段取りっぽいな」と思うこともしばしばだった。

    流れが変わったかな?と思ったのはマット・ディモンとポール・グリーングラス監督が組んだ『ボーン・スプレマシー』(2005年)あたりからだろうか。何が違うのかをうまくは説明できないが、とにかくこの作品のアクションは「段取りっぽくなかった」のだ。本当に登場人物同士が本気で闘っている感じがあったし、それを見せるカットワークも実に正確で効果的だった。

    明らかに革命的な変化があったのは『ジョン・ウィック』(2014年)だと思う。効果的にカットを割って見せていくそれまでの映画と違って、カットを割らずにアクションの流れを極力そのまま見せていく手法はそれまでの作品とは段違いの迫力で「スタントマンたちはみんなちゃんと生きているのか?」と思うほどだった。『ジョン・ウィック』シリーズを経て世界のアクション映画は変化し、その延長線で『レイジング・ファイア』や『トワイライト・ウォーリアーズ 決戦!九龍城砦』(2024年)、そしてこの『プロセキューター』のような作品たちが生まれていった感じがする。

    そして驚くべきことにこの作品のアクション監督は『はたらく細胞』の大内貴仁さん。『はたらく細胞』はワイヤーなどを使ったある意味ファンタジー的な派手派手アクションだったけど、今回は格闘中心のリアル志向な見せ方で実に素晴らしかった。

    さらにこの映画の感想として忘れていけないのは、我々世代には何とも懐かしい『Mr.BOO!/ミスター・ブー』(1976年)のマイケル・ホイが出演していることだ。彼は現在83歳とのことだが、衰えを全く感じさせないユーモラスな演技でしっかりと笑いをとっていて、作品に厚みを加えるのに一役買っている。香港映画の歴史を感じさせるナイス・キャスティングである。

    『プロセキューター』監督:ドニー・イェン(2025年10月3日 @池袋グランドシネマサンシャイン シアター7)