Netflixで4月に配信スタートした樋口真嗣監督によるリメイク版『新幹線大爆破』は、配信映画ではあるが大スクリーンに相応しい迫力満点の内容で「これは映画館で観たかったな」と思った人も多かったのではないだろうか。
視聴者の高い評価が後押しとなり、恐らく年末にかけて選出される各映画賞ノミネートの可能性が大いにあると踏んだ製作サイドが、ここに来て2週間の限定劇場公開に踏み切ったようだ。配信作品であっても2週間、映画館で公開された実績があれば映画賞ノミネートの資格が得られるからだ。
と言うわけで、ファンにとってはありがたい劇場鑑賞のチャンスが訪れた。ただし劇場は東京・調布と大阪・心斎橋の2ヶ所のみ。調布は遠いけど、これを逃したら樋口版『新幹線大爆破』を大スクリーンで堪能するチャンスはないかもしれないと思い、公開初日のチケットを取った。
当日、何年振りかの利用となる京王線に乗り継いで調布へ向かい、劇場へ到着。中に入ると上映シアターは老若男女で満員、かなりの熱気である。いよいよ待望の上映が始まり、ワクワクしながらスクリーンを見つめていたら、「ん?」となってしまった。なんと俳優たちのセリフに日本語字幕が表示されているではないか。
洋画なら日本語字幕はわかる。耳の不自由な方向けに日本映画の日本語字幕がつくこともある。しかし通常の上映で日本人が話す日本語に日本語字幕がつくのは極めて稀である。当然ホームページや上映スケジュールにもそんな事前アナウンスや記載は一切なかった。
しばらくそのまま映画を観ていたが、まあはっきり言って画面がうるさくて見にくい。他のお客さんが不満を言うかと思ったら意外と無反応で、抗議に行こうとしている感じはない。僕も「ひょっとしたら途中から字幕なしに切り替わるか、上映をやり直したりするのかな?」と思っていたが、映画はそのまま進み日本語字幕がついた状態で上映は終わった。見終わった人たちは「何で日本語字幕?」などと言っている声はあったが、憤って劇場スタッフに抗議に行くというような感じではなかった。
結論から言うと、どうやら上映素材がなぜか日本語字幕が付いたバージョンしかないらしいのだ。なので心斎橋でも日本語字幕付きで上映しているらしい。翌日からはホームページのスケジュールにようやくその記載が付いた。「だったら先にそう言えよ」である。
今回の上映についてXなどの反応を見たら「専門用語が多いから字幕があって逆によかった」と言っている人もいた。今や日本映画でも日本語字幕をつけて倍速で見たりする人もいるらしいから、日本映画に日本語字幕がついても気にしない人が大多数なのかもしれない。
しかし、しかしである。僕は樋口真嗣版『新幹線大爆破』のスクリーン上映を楽しみにしていたし、日本語字幕のない通常の状態で画面のすみずみまでこの映画を味わいたかった。そのためにわざわざ調布まで出かけたのだ。そして声こそ上げないけど僕の他にもそう言う人はたくさんいたはずだと思っている。「日本語字幕版」で上映されることを知っていたら、僕はわざわざ調布にまで足を運ばなかった。
今回僕がショックだったのは、この映画の製作・上映に関わっている責任ある立場の人は「別に日本語字幕付いてったっていいでしょ」と思っていたということだ。そして観客の多くが「日本語字幕版」の上映に対してあまり不満を感じていないということも。
僕は地上波の情報番組やバラエティのようにどぎつい色で上にも下にも横にも入る字幕スーパーはうるさいと思う方だ。映画においても過剰な情報は作品の純粋性を邪魔するノイズだと思っている。でも多くの人たちにとっては日本語字幕がつくくらい、気にするようなことではないのだろう。だが僕はおかげで大好きなこの作品の貴重な劇場上映を全く楽しむことができず、何だかモヤモヤした1日になってしまったのだった。
Netflix版『新幹線大爆破』(2025年 監督:樋口真嗣)2025年10月3日 @イオンシネマシアタス調布 スクリーン5