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  • 30年の時を超えてついに開かれた扉(笑) 壮大なSF叙事詩『ハイペリオン』

    この本の単行本が日本で出版されたのは1994年のこと(本国は89年)。僕は確かその翌年に購入し、二段組500ページ超えの分量に圧倒されて、以来30年も本棚に眠らせていたが、長年のやり残した思いを叶えて今月ようやく読むことができた。まるで劇中のコールドスリープ(全然違うけど笑)のような体験だ。

    SFファンならその名を知らぬものはいない金字塔的な作品で、ヒューゴー賞&ローカス賞を受賞し、日本出版当時も作家の椎名誠さんらが絶賛し話題となったこの本。

    恒星間の瞬間移動が可能となり、200以上の惑星が連邦制の元に統一された28世紀。辺境惑星ハイペリオンにある、時間を逆転させる力を持つ謎の建造物“時間の墓標”の膨張が始まり、時を同じくして宇宙の蛮族“アウスター”がハイペリオンへの侵攻を開始する。連邦は“時間の墓標”の謎を解明するため7人の使者を巡礼としてハイペリオンへ派遣した…と、あらすじを聞いても何だかわかったようなわからないようなストーリーである。まあなんせ「千古の謎を秘めた辺境惑星に展開する壮大なるSF叙事詩」(単行本帯コピーより)なのでわかりやすく一言で説明するのは不可能なのだ。

    作中には「これは94年に読んでも理解するのは難しかったかもしれないな」というようなテクノロジーや設定がバンバン出てきて、まずそれを理解・イメージするのが大変。最近になってやっと“AIの人格”とかいうものもイメージできるようになってきたのでなんとか大丈夫だったが、まあなかなかの難易度である。

    時間の墓標へ向かう道中で領事・司祭・兵士・詩人・学者・探偵・船長といった7人の使者が、それぞれこの巡礼に参加することになった経緯を順番に語っていくという全体構成で、それぞれが独立したエピソードとして展開。そのジャンルも、ミステリー、戦争アクション、恋愛ものなど多岐に渡り、さらにそれぞれの話が持つ情報量も半端なくて、まずはお話についていくのに一苦労。まあ一筋縄ではいかないのだ。

    そしてこれはネタバレにはならないと思うが、実はこの物語は4部作で、この1冊を読んだだけでは完結しない。こ~んなに長い1冊を読み終えてもまだ導入部に立ったばかりなのだ。乗り掛かった船なのでなんとか航海の終わりまで見届けたいと思うが、まあとにかく「よくこんな話を思いついたな」と、作者ダン・シモンズの生み出した壮大なイマジネーションに圧倒され続ける1作だ。

    書籍『ハイペリオン』早川書房(1989年 著:ダン・シモンズ)