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  • 2026年一発目の劇場鑑賞映画は78歳クセつよ脚本家の最新監督作『星と月は天の穴』

    『赤い髪の女』『Wの悲劇』『ヴァイブレータ』『共喰い』など、日本映画に数々の傑作を残した名脚本家であり、監督でもある荒井晴彦の監督最新作。70年代のロマンポルノ作品からキャリアをスタートさせた彼の脚本作品は、どれも一癖も二癖もあるが、同時に忘れられない深い味わいがある。1997年の『身も心も』からは監督業にも進出し、すでに5本のメガホンを取っているからもう立派な映画監督である。

    僕は根岸吉太郎監督・荒井晴彦脚本の『遠雷』(1980年)を観て以来、脚本家・荒井晴彦のファンだが、直近の監督作『火口のふたり』(2019年)と『花腐し』(2023年)ですっかり“監督・荒井晴彦”にも魅了されてしまい、最新作の公開を楽しみにしていた。

    原作は吉行淳之介。綾野剛演じる、女を愛することを恐れる一方で愛されたい願望をこじらせる40代の小説家・矢添の日常を、エロティシズムとペーソスを織り交ぜながら描いていく物語。矢添と関係を持つ大学生・紀子を咲耶、矢添の馴染みの娼婦・千枝子を田中麗奈が演じる。

    いわゆるドラマチックなストーリー展開のようなものはなく、ふわふわと捉え所のない中年男の、恋愛にもなっていないような男女関係のあれこれが淡々と描かれていく。人によっては「一体何を見せられているのだ?」と思うかもしれない。そこには人間の哀しさ、愚かさ、可笑しさがあって、それはそれで面白いのだが、まあぶっちゃけ観客を選ぶタイプの映画ではあるだろう

    今回は監督の前作・前々作とは作風がガラリと違っていて、登場人物たちが棒読みのような淡々とした台詞回しで、あまり感情を交えないで会話する。男女のいわゆる“からみ”シーンもそれなりにあるのだが、淡々と機械的に行われていて、全然いやらしくなく、こちらもかなり滑稽である。これまで荒井晴彦といえば、情念がからみあうような性愛シーンをいくつも描いてきたけれど、「今回はそういう方向性ではないからね」ということなのだろう。荒井晴彦の過去作を愛する者としてはいささか物足りない感じがしてしまうが、これはまあ仕方ない。

    同じ吉行淳之介原作の『夕暮まで』(1980年 監督:黒木和雄)などでも、セクシャルな関係がありながら心は乾いている、みたいな人間たちを描いていたので、これは吉行作品の資質の一つかもしれない。『星と月は天の穴』も1969年の設定で、「革命」とか「デモ」とか全共闘世代のワードが台詞として出てくるけど、こちらも言葉に熱がなく、諦念があるのだ。

    熱さを欲してはいるけれど、そこに辿り着けないでいる人の淋しさ、可笑しさを荒井監督はやりたかったのかもしれない。

    2026年1月8日 @TOHOシネマズ シャンテ3

    蛇足的追記:

    🔳監督の前作『花腐し』に続いて綾野剛が主演を務めている。こういう「一般ウケしにくいタイプの作品」に彼のような人気俳優が出演することによって、きちんと製作できる体制が成立する。さらに彼は完成披露や舞台挨拶などでも自分が積極的にマスコミの前に出て、やや偏屈な荒井監督のスポークスマンとなって笑いを取っていた。そういう意味でも綾野剛は、山田孝之や小栗旬たちに通じるプロデューサー的感覚を持った俳優として本当に素晴らしいと思う。今後ともぜひ頑張ってほしい。

    🔳僕が特に好きな荒井晴彦脚本作品は『餌食』『遠雷』『キャバレー日記』『ダブルベッド』『Wの悲劇』『ひとひらの雪』『ベッド・イン』『恋人たちの時刻』『リボルバー』『ヴァイブレータ』『やわらかい生活』『共喰い』『福田村事件』など。もっとあるけど本当に素晴らしい傑作ばかりです。そして監督も務めた『火口のふたり』『花腐し』はマジで最高。もし観ていなかったらぜひ観てみてください。

    原作とはちょっと違って舞台が秋田になっちゃったけど、それでも傑作。
    綾野剛、柄本佑、さとうほなみのアンサンブルが素晴らしい!

    でも家で観る時は一人でこっそり観た方がいいよ笑